や》へお呼び入れになりました。
紳士 奴は、あの木戸から入ったな。あの、木戸から。
侍女 男が吃驚《びっくり》するのを御覧、と私《わたくし》にお囁《ささや》きなさいました。奥様が、烏は脚では受取らない、とおっしゃって、男が掌《てのひら》にのせました指環を、ここをお開きなさいまして、(咽喉《のど》のあく処を示す)口でおくわえ遊ばしたのでございます。
紳士 口でな、もうその時から。毒蛇め。上頤下頤《うわあごしたあご》へ拳《こぶし》を引掛《ひっか》け、透通る歯と紅《べに》さいた唇を、めりめりと引裂く、売女《ばいた》。(足を挙げて、枯草を踏蹂《ふみにじ》る。)
画工 ううむ、(二声ばかり、夢に魘《うな》されたるもののごとし。)
紳士 (はじめて心付く)女郎《めろう》、こっちへ来い。(杖《ステッキ》をもって一方を指《ゆびさ》す。)
侍女 (震えながら)はい。
紳士 頭《かしら》を着けろ、被《かぶ》れ。俺の前を烏のように躍って行《ゆ》け、――飛べ。邸を横行する黒いものの形《かた》を確《しか》と見覚えておかねばならん。躍れ。衣兜《かくし》には短銃《ピストル》があるぞ。
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