います。
紳士 餓鬼《がっき》め、其奴《そいつ》か。
侍女 ええ。
紳士 相手は其奴じゃな。
侍女 あの、私《わたくし》がわけを言って、その指環を返しますように申しますと、串戯《じょうだん》らしく、いや、これは、人間の手を放れたもの、烏の嘴から受取ったのだから返されない。もっとも、烏にならば、何時《なんどき》なりとも返して上げよう――とそう申して笑うんでございます。それでも、どうしても返しません。そして――確《たしか》に預る、決して迂散《うさん》なものでない――と云って、ちゃんと、衣兜《かくし》から名刺を出してくれました。奥様は、面白いね――とおっしゃいました。それから日を極《き》めまして、同じ暮方の頃、その男を木戸の外まで呼びましたのでございます。その間に、この、あの、烏の装束をお誂《あつら》え遊ばしました。そして私《わたくし》がそれを着て出まして、指環を受取りますつもりなのでございましたが、なぶってやろう、とおっしゃって、奥様が御自分に烏の装束をおめし遊ばして、塀の外へ――でも、ひょっと、野原に遊んでいる小児《こども》などが怪しい姿を見て、騒いで悪いというお心付きから、四阿《あずま
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