めいど》の旅のごときものじゃ。昔から、事が、こういう事が起って、それが破滅に近づく時は、誰もするわ。平凡な手段じゃ。通例過ぎる遣方《やりかた》じゃが、せんという事には行《ゆ》かなかった。今云うた冥土の旅を、可厭《いや》じゃと思うても、誰もしないわけには行《ゆ》かぬようなものじゃ。また、汝等《きさまら》とても、こういう事件の最後の際には、その家の主人か、良人《おっと》か、可《え》えか、俺がじゃ、ある手段として旅行するに極《きま》っとる事を知っておる。汝《きさま》は知らいでも、怜悧《りこう》なあれは知っておる。汝とても、少しは分っておろう。分っていて、その主人が旅行という隙間《すきま》を狙う。わざと安心して大胆な不埒《ふらち》を働く。うむ、耳を蔽《おお》うて鐸《すず》を盗むというのじゃ。いずれ音の立ち、声の響くのは覚悟じゃろう。何もかも隠さずに言ってしまえ。いつの事か。一体、いつ頃の事か。これ。
侍女 いつ頃とおっしゃって、あの、影法師の事でございましょうか。それは唯今《ただいま》……
紳士 黙れ。影法師か何か知らんが、汝等《きさまら》三人の黒い心が、形にあらわれて、俺の邸の内外を横行しは
前へ
次へ
全33ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング