いまし。
紳士 言う事はそれだけか。
初の烏 はい?(聞返す。)
紳士 俺に云う事は、それだけか、女郎《めろう》。
初の烏 あの、(口籠《くちごも》る)今夜はどういたしました事でございますか、私《わたくし》の形《なり》……あの、影法師が、この、野中の宵闇《よいやみ》に判然《はっきり》と見えますのでございます。それさえ気味が悪うございますのに、気をつけて見ますと、二つも三つも、私《わたくし》と一所に動きますのでございますもの。
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三方に分れて彳《たたず》む、三羽の烏、また打頷《うちうなず》く。
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もう可恐《おそろし》くなりまして、夢中で駈出しましたものですから、御前様に、つい――あの、そして……御前様は、いつ御旅行さきから。
紳士 俺の旅行か。ふふん。(自ら嘲《あざ》ける口吻《くちぶり》)汝《きさま》たちは、俺が旅行をしたと思うか。
初の烏 はい、一昨日から、北海道の方へ。
紳士 俺の北海道は、すぐに俺の邸の周囲じゃ。
初の烏 はあ、(驚く。)
紳士 俺の旅行は、冥土《
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