台の際まで引摺《ひきず》って来ると、お兼は心得て粋《いき》な浴衣に半纏を引《ひっ》かけた姿でちょいと屈《かが》み、掌《てのひら》で黒斑を撫《な》でた、指環が閃《ひらめ》いたと見ると、犬の耳が片一方、お兼の掌《てのひら》の上へ血だらけになって乗ったのである。人間でもわけなしだよ、と目前奇特を見せ、仕方を教え、針のごとく細く、しかも爪ほどの大《おおき》さの恐るべき鋭利な匕首《ナイフ》を仕懸けた、純金の指環を取って、これを滝太郎の手に置くと、かつて少年の喜ぶべき品、食物なり、何等のものを与えてもついぞ嬉しがった験《ためし》のない、一つはそれも長屋|中《うち》に憎まれる基《もとい》であった滝太郎が、さも嬉しげに見て、じっと瞶《みつ》めた、星のような一双の眼《まなこ》の異様な輝《かがやき》は、お兼が黒い目で睨《にら》んでおいた。滝太郎は生れながらにして賊性を亨《う》けたのである。諸君は渠《かれ》がモウセンゴケに見惚《みと》れた勇美子の黒髪から、その薔薇《ばら》の薫《かおり》のある蝦茶《えびちゃ》のリボン飾を掏取《すりと》って、総曲輪の横町の黄昏《たそがれ》に、これを掌中に弄《もてあそ》んだのを記
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