黒百合
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)石滝《いわたき》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)越中の国|立山《たてやま》なる

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]
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      序

 越中の国|立山《たてやま》なる、石滝《いわたき》の奥深く、黒百合となんいうものありと、語るもおどろおどろしや。姫百合、白百合こそなつかしけれ、鬼と呼ぶさえ、分けてこの凄《すさま》じきを、雄々しきは打笑い、さらぬは袖几帳《そでぎちょう》したまうらむ。富山の町の花売は、山賤《やまがつ》の類《たぐい》にあらず、あわれに美しき女なり。その名の雪の白きに愛でて[#「愛でて」は底本では「愛でで」]、百合の名の黒きをも、濃い紫と見たまえかし。
    明治三十五年寅壬[#「寅壬」は縦中横]三月
[#改ページ]

       一

「島野か。」
 午《ひる》少し過ぐる頃、富山県知事なにがしの君が、四十物町《あえ
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