火鉢の灰までをお銭《あし》にして、それで出合《だしあい》の涙金を添えて持たせ、道で鳶《とび》にでも攫《さら》われたら、世の中が無事で好《い》い位な考えで、俵町から滝太郎を。
一昨日《おととい》来るぜい、おさらばだいと、高慢な毒口を利いて、ふいと小さなものが威張って出る。見え隠れにあとを跟《つ》けて、その夜《よ》金竜山の奥山で、滝さん餞別《せんべつ》をしようと言って、お兼が無名指《べにさし》からすっと抜いて、滝太郎に与えたのが今も身を離さず、勇美子が顔を赤らめてまで迫ったのを、頑として肯《き》かなかった指環《ゆびわ》なのである。
その時、奥山で餞《はなむけ》した時、時ならぬ深夜の人影を吠《ほ》える黒犬があった。滝さんちょいとつかまえて御覧とお兼がいうから、もとより俵町|界隈《かいわい》の犬は、声を聞いて逃げた程の悪戯《いたずら》小憎。御意は可しで、飛鳥のごとく、逃げるのを追懸《おッか》けて、引捕《ひッとら》え、手もなく頸《うなじ》の斑《ぶち》を掴《つか》んで、いつか継父が児《こ》を縊《くび》り殺した死骸《しがい》の紫色の頬が附着《くッつ》いていた処だといって今でも人は寄附かない、ロハ
前へ
次へ
全199ページ中98ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング