の父兄等に信用を失って、席札は櫛《くし》の歯の折れるように透いて無くなったが、あえて意《こころ》にも留めないで、ますます滝太郎を愛育した。いかにか見処《みどころ》があったのであろう。

       三十一

 しかるに先生は教うるにいかなる事をもってしたのであるか、まさかに悪智慧《わるぢえ》を着けはしまい。前年その長屋の表町に道普請があって、向側へ砂利を装上《もりあ》げたから、この町を通る腕車荷車は不残《のこらず》路地口の際を曳《ひ》いて通ることがあった。雨が続いて泥濘《ぬかるみ》になったのを見澄して、滝太が手で掬《すく》い、丸太で掘って、地面を窪《くぼ》めておき、木戸に立って車の来るのを待っていると、窪《くぼみ》は雨溜《あめだまり》で探りが入《い》らず、来るほどの車は皆輪が喰い込んで、がたりとなる。さらぬだに持余すのにこの陥羂《おとしわな》に懸《かか》っては、後へも前《さき》へも行くのではないから、汗になって弱るのを見ると、会心の笑《えみ》を洩《も》らして滝太、おじさん押してやろう、幾干《いくら》かくんねえ、と遣ったのである。自から頼む所がなくなってはさる計《はかりごと》もしはせま
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