ようよう竹町の路地の角に、黒板塀に附着《くッつ》けて売物という札を貼《は》ってあった、屋台を一個《ひとつ》、持主の慈悲で負けてもらって、それから小道具を買揃えて、いそいそ俵町に曳《ひ》いて帰ると、馴れないことで、その辺の見計いはしておかなかった、件《くだん》の赤煉瓦と横窓との間の路地は、入口が狭いので、どうしても借家まで屋台を曳込《ひきこ》むことが出来ないので、そのまま夜一夜《よひとよ》置いたために、三晩とは措《お》かず盗まれてしまったので、祖父は最後の目的の水の泡になったのに、落胆して煩い着いたが、滝太郎の舌が廻って、祖父ちゃん祖父ちゃん、というのを聞いて、それを思出に世を去った。
後は母親が手一ツで、細い乳を含めて遣《や》る、幼児《おさなご》が玉のような顔を見ては、世に何等かの大不平あってしかりしがごとき母親が我慢の角も折れたかして、涙で半襟の紫の色の褪《あ》せるのも、汗で美しい襦袢《じゅばん》の汚れるのも厭《いと》わず、意とせず、些々《ささ》たる内職をして苦労をし抜いて育てたが、六ツ七ツ八ツにもなれば、膳《ぜん》も別にして食べさせたいので、手内職では追着《おッつ》かないから、世
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