な言《こと》ばっかし。不可《いけね》えだの、居やがるだのッて、そんな言《こと》は御邸の車夫だって、部屋へ下って下の者同士でなければ申しません。本当に不可《いけ》ませんお道楽でございますねえ。」
「生意気なことをいったって、不可《いけね》えや、畏《かしこま》ってるなあ冬のこッた。ござったのは食物でみねえ、夏向は恐れるぜ。」
「そのお口だものを、」といって驚いて顔を見た。
「黙って、見るこッた、折角お珍らしいのに言句《もんく》をいってると古くしてしまう。」といいながら、急いで手巾《ハンケチ》を解《ほど》いて、縁の上に拡げたのは、一|掴《つかみ》、青い苔《こけ》の生えた濡土である。
 勇美子は手を着いて、覗《のぞ》くようにした。眉を開いて、艶麗《あてやか》に、
「何です。」
 滝太郎は背《せな》を向けてぐっと澄まし、
「食いつくよ、活きてるから。」

       四

「まあ、若様、あなた、こっちへお上り遊ばしましな。」と小間使は一塊の湿った土をあえて心にも留めないのであった。
「面倒臭いや、そこへ入り込むと、畏《かしこま》らなけりゃならないから、沢山だい。」といって、片足を沓脱《くつぬぎ
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