ってた滝太郎は、突然《いきなり》縁に懸けて後《うしろ》ざまに手を着いたが、不思議に鳥の鳴く音《ね》がしたので、驚いて目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》って、また掌《てのひら》でその縁の板の合せ目を圧《おさ》えてみた。
「何だい、鳴るじゃあないか、きゅうきゅういってやがら、おや、可訝《おかし》いな。」
「お縁側が昔のままでございますから、旧《もと》は好事《ものずき》でこんなに仕懸けました。鶯張《うぐいすばり》と申すのでございますよ。」
 小間使が老実立《まめだ》っていうのを聞いて、滝太郎は恐入った顔色《かおつき》で、
「じゃあ声を出すんだろう、木だの、草だの、へ、色々なものが生きていら。」
「何をいってるのよ。」と勇美子は机の前に、整然《ちゃん》と構えながら苦笑する。
「どう遊ばしましたの。」
取為顔《とりなしがお》の小間使に向って、
「聞きねえ、勇さんが、ね、おい。」
「あれ、また、乱暴なことを有仰《おっしゃ》います。」と微笑《ほほえ》みながら、道は馴々《なれなれ》しく窘《たしな》めるがごとくに言った。
「御容子《ごようす》にも御身分にもお似合い遊ばさない、ぞんざい
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