》に踏伸ばして、片膝を立てて頤《おとがい》を支えた。
「また、そんなことを有仰《おっしゃ》らないでさ。」
「勝手でございますよ。」
「それではまあお帽子でもお取り遊ばしましな、ね、若様。」
黙っている。心易立《こころやすだ》てに小間使はわざとらしく、
「若様、もし。」
「堪忍しねえ、※[#「火+玄」、第3水準1−87−39]《まぶし》いやな。」
滝太郎はさも面倒そうに言い棄てて、再び取合わないといった容子を見せたが、俯向《うつむ》いて、足に近い飛石の辺《ほとり》を屹《きっ》と見た。渠《かれ》は※[#「火+玄」、第3水準1−87−39]いといって小間使に謝したけれども、今瞳を据えた、パナマの夏帽の陰なる一双の眼《まなこ》は、極めて冷静なものである。小間使は詮方《せんかた》なげに、向直って、
「お嬢様、お茶を入れて参りましょう。」
勇美子は余念なく滝太郎の贈物を視《なが》めていた。
「珈琲《コオヒイ》にいたしましょうか。」
「ああ、」
「ラムネを取りに遣わしましょうか。」
「ああ、」とばかりで、これも一向に取合わないので、小間使は誠に張合がなく、
「それでは、」といって我ながら訳も解
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