ッ》と摺附木《マッチ》を摺《す》る。小さな松火《たいまつ》は真暗《まっくら》な中に、火鉢の前に、壁の隅に、手拭の懸《かか》った下に、中腰で洋燈《ランプ》の火屋《ほや》を持ったお雪の姿を鮮麗《きれい》に照《てら》し出した。その名残《なごり》に奥の部屋の古びた油団《ゆとん》が冷々《ひやひや》と見えて、突抜けの縁の柱には、男の薄暗い形が顕《あら》われる。
 島野は睨《にら》み見て、洋杖《ステッキ》と共に真直《まっすぐ》に動かず突立《つった》つ。お雪は小洋燈に灯を移して、摺附木を火鉢の中へ棄てた手で鬢《びん》の後毛《おくれげ》を掻上《かいあ》げざま、向直ると、はや上框《あがりがまち》、そのまま忙《せわ》しく出迎えた。
 ちょいと手を支《つ》いて、
「まあ、どうも。」
「…………」島野は目の色も尋常《ただ》ならず、尖《とが》った鼻を横に向けて、ふんと呼吸《いき》をしたばかり。
「失礼、さあ、お上りなさいまし、取散らかしまして、汚穢《むそ》うございますが、」と極《きま》り悪げに四辺《あたり》を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》すのを、後《うしろ》の男に心を取られてするように悪推《
前へ 次へ
全199ページ中71ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング