では業平《なりひら》なんだから耐《たま》らない。
 花屋の庭は美しかろう、散歩の時は寄ってみるよ、情郎《いろおとこ》は居ないか、その節邪魔にすると棄置かんよ、などと大《おお》上段に斬込《きりこ》んで、臆面《おくめん》もなく遊びに来て、最初は娘の謂うごとく、若山を兄だと思っていた。
 それ芸妓《げいしゃ》の兄《あに》さん、後家の後見、和尚の姪《めい》にて候ものは、油断がならぬと知っていたが、花売の娘だから、本当の兄もあるだろうと、この紳士大ぬかり。段々様子が解ってみると、瞋恚《しんい》が燃ゆるようなことになったので、不埒《ふらち》でも働かれたかのごとく憤り、この二三日は来るごとに、皮肉を言ったり、当擦《あてこす》ったり、つんと拗《す》ねてみたりしていたが、今夜の暗いのはまた格別、大変、吃驚《びっくり》、畜生、殺生なことであった。
 かつてまた、白墨狂士多磨太君の説もあるのだから、肉が動くばかりしばしも耐《たま》らず、洋杖《ステッキ》を握占めて、島野は、
「暗いじゃあないか、おい、おい。」とただ忙《あせ》る。
「はい、」と潤んだ含声の優しいのが聞えると、※[#「火+發」、276−15]《ぱ
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