申すことも出来ませんし、それに、あの、こないだ総曲輪でお転びなすった時、どうも御様子が解りません、お湯にお入りなさいましたとは受取り難《にく》うございますもの、往来ですから黙って帰りました。が、それから気を着けて、お知合のお医者様へいらっしゃるというのは嘘で、石滝のこちらのお不動様の巌窟《いわや》の清水へ、お頭《つむり》を冷《ひや》しにおいでなさいますのも、存じております。不自由な中でございますから、お怨み申しました処で、唯今《ただいま》はお薬を思うように差上げますことも出来ませんが、あの……」
と言懸けて身を正しく、お雪はあたかも誓うがごとくに、
「きっとあの私が生命《いのち》に掛けましても、お目の治るようにして上げますよ。」と仇気《あどけ》なく、しかも頼母《たのも》しくいったが、神の宣託でもあるように、若山の耳には響いたのである。
「気張っておくれ、手を合わして拝むといっても構わんな。実に、何だ、僕は望《のぞみ》がある、惜《おし》い体だ。」といって深く溜息を吐《つ》いたのが、ひしひしと胸に応《こた》えた。お雪は疑わず、勇ましげに、
「ええ、もう治りますとも。そして目が開いて立派な
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