み》と隠していたのを、つい見透かされたもんだから、罪なことをすると思って、一刻に訳も分らないで、悪いことをいった。知ってる、僕は自分|極《ぎ》めかも知らないが、お前さんの心は知ってる意《つもり》だ。情無い、もう不具根性《かたわこんじょう》になったのか、僻《ひがみ》も出て、我儘《わがまま》か知らぬが、くさくさするので飛んだことをした、悪く思わないでおくれ。」
その平生《ふだん》の行《おこない》は、蓋《けだ》し無言にして男の心を解くべきものがあったのである。お雪は声を呑んで袂に食着いていたのであるが、優しくされて気も弛《ゆる》んで、わっと嗚咽《おえつ》して崩折《くずお》れたのを、慰められ、賺《すか》されてか、節も砕けるほど身に染みて、夢中に躙《にじ》り寄る男の傍《そば》。思わず縋《すが》る手を取られて、団扇は庭に落ちたまま、お雪は、潤んだ髪の濡れた、恍惚《うっとり》した顔を上げた。
「貴方《あなた》、」
「可いよ。」
「あの、こう申しますと、生意気だとお思いなさいましょうが、」
「何、」
「お気に障りましたことは堪忍して下さいまし、お隠しなさいますお心を察しますから、つい口へ出してお尋ね
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