っと灯《あかし》を点《つ》けないでおけよ。」
「へい。」
「覗《のぞ》くと煩《うるさ》いや。」
「それでは蚊帳を釣って進ぜましょ。」
「何、おいら、直ぐ出掛けようかとも思ってるんだ。」
「可いようにさっしゃりませ。」
「ああ、それから待ちねえこうだと、今に一人|此家《ここ》へ尋ねて来るものがあるんだから、頼むぜ。」
「お友達かね。お前様は物事《ものずき》じゃで可《よ》いけれど、お前様のような方のお附合なさる人は、から、入ってしばらくでも居られます所じゃあござりませぬが。」
 言いも終らず、快活に、
「気扱いがいる奴じゃねえ、汚《きたね》え婦人《おんな》よ。」
「おや!」と頓興《とんきょ》にいった、婆《ばば》の声の下にくすくすと笑うのが聞える。
「婆ちゃん、おくんな。」と店先で小児《こども》の声、繰返して、
「おくんな。」
「おい。」
「静《しずか》に………」といって、暗中の客は寝転んだ様子である。

       二十

 婆《ばば》が帰った後《あと》、縁側に身を開いて、一人は柱に凭《よ》って仰向《あおむ》き、一人は膝に手を置いて俯向《うつむ》いて、涼しい暗い処に、白地の浴衣で居た、お
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