《おうな》、いつもその昔の繁華を語って落涙する。今はただ蚊が名物で、湯の谷といえば、市《まち》の者は蚊だと思う。木屑《きくず》などを焼《た》いた位で追着《おッつ》かぬと、売物の蚊遣香は買わさないで、杉葉《すぎッぱ》を掻《か》いてくれる深切さ。縁側に両人《ふたり》並んだのを見て嬉しそうに、
「へい、旦那様知ってるだね。」
十七
「百合には種類が沢山あるそうだよ。」
ささめ、為朝《ためとも》、博多《はかた》、鬼百合、姫百合は歌俳諧にも詠《よ》んで、誰も知ったる花。ほしなし、すけ、てんもく、たけしま、きひめ、という珍らしい名なるがあり。染色《そめいろ》は、紅《くれない》、黄、透《すかし》、絞《しぼり》、白百合は潔く、袂《たもと》、鹿《か》の子は愛々しい。薩摩《さつま》、琉球《りゅうきゅう》、朝鮮、吉野、花の名の八重百合というのもある。と若山は数えて、また紅絹《もみ》の切《きれ》で美しく目を圧《おさ》え、媼《おうな》を見、お雪を見て、楽しげに、且つ語るよう、
「話の様子では西洋で学問をなすったそうだし、植物のことにそういう趣味を持ってるなら、私よりは、お前のお花主《とくい》
前へ
次へ
全199ページ中51ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング