寺|参《まいり》をするのに木綿を着せて、汝《うぬ》が傾城買《じょろうかい》をするのに絹を纏《まと》うのは何たることじゃ、という廉《かど》をもって、説諭をくらわした。」
「それで何かね、警察へ呼出しかね。」
「ははあ、幾ら俺が手下を廻すとって、まさかそれほどの事では交番へも引張《ひっぱ》り出せないで、一名制服を着けて、洋刀《サアベル》を佩《お》びた奴を従えて店前《みせさき》へ喚《わめ》き込んだ。」
「おやおや、」
「何、喧嘩をするようにして言って聞かせても、母親《おふくろ》は昔|気質《かたぎ》で、有るものを着んのじゃッて。そんなことを構うもんか、こっちはそのせいで藁草履《わらぞうり》を穿《は》いて歩いてる位じゃもの。」
さなり、多磨太君の藁草履は、人の跡を跟《つ》けるのに跫音《あしおと》を立てぬ用意である。
十五
「それからの、山田下の植木屋の娘がある、美人じゃ。貴様知ってるだろう、あれがな、次助というて、近所の鋳物師の忰《せがれ》と出来た。先月の末、闇《やみ》の晩でな、例のごとく密行したが、かねて目印の付いてる部じゃで、密《そっ》と裏口へ廻ると、木戸が開いていたから
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