》いことを!」
 島野は今更のように多磨太の豪傑|面《づら》を瞻《みまも》った。
「何《な》に其等《そいら》はほんの前芸じゃわい。一体何じゃぞ、手下どもにも言って聞かせるが、野郎と女と両方夢中になっとる時は常識を欠いて社会の事を顧みぬじゃから、脱落《ぬかり》があってな、知らず知らず罪を犯しおるじゃ。私《わし》はな、ただ秘密ということばかりでも一種立派な罪悪と断ずるで、勿論市役所へ届けた夫婦には関係せぬ。人の目を忍ぶほどの中の奴なら、何か後暗いことをしおるに相違ないでの。仔細《しさい》に観察すると、こいつ禁錮《きんこ》するほどのことはのうても、説諭位はして差支えないことを遣っとるから、掴《つか》み出して警察で発《あば》かすわい。」
「大変だね。」
「発くとの、それ親に知れるか、亭主に知れるか、近所へ聞える。何でも花火を焚《た》くようなもので、その途端に光輝天に燦爛《さんらん》するじゃ。すでにこないだも東の紙屋の若い奴が、桜木町である女と出来合って、意気事を極《き》めるちゅうから、癪《しゃく》に障ってな、いろいろ験《しら》べたが何事もないで、為方《しかた》がない、内に居る母親《おふくろ》が
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