《いた》る処俺が例の観察をして突留めた奴の家《うち》には、必ず、門札の下へ、これで、ちょいとな。」
「ふん、はてね。」
「貴様今見たか、あれじゃ、あの形じゃ。目立たぬように丸い輪を付けておくことにしたんじゃ。」
「御趣向だね。」
「どうだ、今の家《うち》には限らずな、どこでも可《よ》いぞ、あの印の付いた家を随時|窺《うかが》って見い。殊に夜な、きっと男と女とで、何かしら、演劇《しばい》にするようなことを遣っとるわ。」
十四
多磨太は言懸けて北叟笑《ほくそえ》み、
「貴様も覚えておいてちと慰みに覗《のぞ》いて見い。犬川でぶらぶら散歩して歩いても何の興味もないで、私《わし》があの印を付けておく内は不残《のこらず》趣味があるわい。姦通かな、親々の目を盗んで密会するかな、さもなけりゃ生命《いのち》がけで惚《ほ》れたとか、惚れられたとかいう奴等、そして男の方は私等《わしら》構わんが、女どもはいずれも国色じゃで、先生|難有《ありがた》いじゃろ。」
ぎろりとした眼で島野を見ると、紳士は苦笑して、
「変ったお慰《なぐさみ》だね、よくそして見付けますなあ。」
「ははあ、なんぞ必ずし
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