桃色の窓懸《まどかけ》を半ば絞った玄関|傍《わき》の応接所から、金々として綺羅《きら》びやかな飾附の、呼鈴《よびりん》、巻莨入《まきたばこいれ》、灰皿、額縁などが洩《も》れて見える――あたかもその前にわざと鄙《ひな》めいた誂《あつらえ》で。
 日車《ひぐるま》は莟《つぼみ》を持っていまだ咲かず、牡丹《ぼたん》は既に散果てたが、姫芥子《ひめげし》の真紅《まっか》の花は、ちらちらと咲いて、姫がものを言う唇のように、芝生から畠を劃《かぎ》って一面に咲いていた三色菫《さんしきすみれ》の、紫と、白と、紅《くれない》が、勇美子のその衣紋《えもん》と、その衣《きぬ》との姿に似て綺麗である。
「どうして、」
 体は大《おおき》いが、小児《こども》のように飛着いて纏《まつ》わる猟犬のあたまを抑《おさ》えた時、傍目《わきめ》も触《ふ》らないで玄関の方へ一文字に行《ゆ》こうとする滝太郎を見着けた。
「おや、」
 同時に少年も振返って、それと見ると、芝生を横截《よこぎ》って、つかつかと間近に寄って、
「ちょいとちょいと、今日はね、うんと礼を言わすんだ、拝んで可《い》いな。」と莞爾々々《にこにこ》しながら、勢《
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