ったのであった。
「恐れるな。小天狗《こてんぐ》め、」とさも悔しげに口の内に呟《つぶや》いて、洋杖《ステッキ》をちょいとついて、小刻《こきざみ》に二ツ三ツ地《つち》の上をつついたが、懶《ものう》げに帽の前を俯向《うつむ》けて、射る日を遮《さえぎ》り、淋《さみ》しそうに、一人で歩き出した。
「ジャム、」
真先《まっさき》に駈《か》けて入った猟犬をまず見着けたのは、当|館《やかた》の姫様《ひいさま》で勇美《ゆみ》子という。襟は藤色で、白地にお納戸で薩摩縞《さつまじま》の単衣《ひとえ》、目のぱッちりと大きい、色のくッきりした、油気の無い、さらさらした癖の無い髪を背《せな》へ下げて、蝦茶《えびちゃ》のリボン飾《かざり》、簪《かざし》は挿さず、花畠《はなばたけ》の日向《ひなた》に出ている。
二
この花畠は――門を入ると一面の芝生、植込のない押開《おっぴら》いた突当《つきあたり》が玄関、その左の方が西洋|造《づくり》で、右の方が廻《まわり》廊下で、そこが前栽になっている。一体昔の大名の別邸を取払った幾分の造作が残ったのに、件《くだん》の洋風の室数《まかず》を建て増したもので、
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