れは雀部《ささべ》多磨太といって、警部長なにがし氏の令息で、島野とは心合《こころあい》の朋友である。
箱を差したように両人気はしっくり合ってるけれども、その為人《ひととなり》は大いに違って、島野は、すべて、コスメチック、香水、巻莨《シガレット》、洋杖《ステッキ》、護謨靴《ゴムぐつ》という才子肌。多磨太は白薩摩《しろさつま》のやや汚れたるを裾短《すそみじか》に着て、紺染の兵児帯《へこおび》を前下りの堅結《かたむすび》、両方|腕捲《うでまくり》をした上に、裳《もすそ》を撮上《つまみあ》げた豪傑造り。五分刈にして芋のようにころころと肥えた様子は、西郷の銅像に肖《に》て、そして形《なり》の低い、年紀《とし》は二十三。まだ尋常中学を卒業しないが、試験なんぞをあえて意とするような吝《けち》なのではない。
島野を引張《ひっぱ》り着けて、自分もその意気な格子戸を後《うしろ》に五六歩。
「見たか。」
島野は瘠《やせ》ぎすで体も細く、釣棹《つりざお》という姿で洋杖《ステッキ》を振った。
「見た、何さ、ありゃ。門札の傍《わき》へ、白で丸い輪を書いたのは。」
「井戸でない。」
「へえ。」
「飲用水の印で
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