お持合せ」は底本では「お待合せ」]のお煙管なり、お簪《かんざし》なり、これへ出してお験《ため》しなさいまし、目の前で銀にしてお慰《なぐさみ》に見せましょう、御遠慮には及びません。」
といってちょいと句切り、煙管を手にして、莨《たばこ》を捻《ひね》りながら、動静を伺って、
「さあさあ、誰方《どなた》でもどうでござんす。」
若い同士耳打をするのがあり、尻を突《つつ》いて促すのがあり、中には耳を引張《ひっぱ》るのがある。止せ、と退《しさ》る、遣着《やッつ》けろ、と出る、ざまあ見ろ、と笑うやら、痛え、といって身悶《みもだ》えするやら、一斉に皆うようよ。有触れた銀流し、汚い親仁《おやじ》なら何事もあるまい、いずれ器量が操る木偶《でく》であろう。
「姉《ねえ》や。」
この時、人の背後《うしろ》から呼んだ、しかしこれは、前に黄な声を発して雀海中に入《い》ってを云々《うんぬん》したごとき厭味《いやみ》なものではない。清《すず》しい活溌なものであった。
婦人《おんな》は屹《きっ》と其方《そなた》を見る、トまた悪怯《わるび》れず呼懸けて、
「姉や、姉や。」
「何でございますか、は、私《わたくし》、
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