「襤褄切」]に件《くだん》の粉を包んで、俯向《うつむ》いて、真鍮の板金を取った。
 お掛けなさいまし、お休みなさいましと、間近な氷店で金切声。夜芝居《よしばい》の太鼓、どろどろどろ、遥《はるか》に聞える観世物《みせもの》の、評判、評判。

       十一

「訳のないこと、子供|衆《しゅ》でも誰でも出来る。ちょいと水をつけておいて、柔かにぐいぐいとこう遣《や》りさえすりゃ、あい、鷹《たか》化して鳩《はと》となり、傘《からかさ》変わって助六となり、田鼠《でんそ》化して鶉《うずら》となり、真鍮変じて銀となるッ。」
「雀入海中為蛤《すずめかいちゅうにいってはまぐりとなる》か。」と、立合の中《うち》から声を懸けるものがあった。
 婦人《おんな》はその声の主《ぬし》を見透そうとするごとく、人顔をじろりと見廻わし、黙って莞爾《にっこり》して、また陳立《のべた》てる。
「さあさあ召して下さい、召して下さいよ。御当地は薬が名物、津々浦々までも効能が行渡るんでございますがね、こればかりは看板を掛けちゃ売らないのですよ。一家秘法の銀流《ぎんながし》、はい、やい、お立合のお方は御遠慮なく、お持合せ[#「
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