大道店の掘出しもの。流れ渡りの旅商人《たびあきんど》が、因縁は知らずここへ茣蓙《ござ》を広げたらしい。もっとも総曲輪一円は、露店も各自《てんでん》に持場が極《きま》って、駈出《かけだ》しには割込めないから、この空地へ持って来たに違いない。それにしても大胆な、女の癖にと、珍しがるやら、怪《あやし》むやら。ここの国も物見高で、お先走りの若いのが、早や大勢。
 婦人《おんな》は流るるような瞳を廻《めぐ》らし、人だかりがしたのを見て、得意な顔色《かおつき》。
「へい、鍍金《めっき》は鍍金、ガラハギはガラハギ、品物に品が備わりませぬで、一目見てちゃんと知れる。どこへ出しても偽物《いかもの》でございますが、手前商いまする銀流しを少々、」と言いかけて、膝に着いた手を後《うしろ》へ引き、煙管を差置いて箱の中の粉を一捻《いちねん》し、指を仰向《あおむ》けて、前へ出して、つらりと見せた。
「ほんの纔《わずか》ばかり、一|撮《つま》み、手巾《ハンケチ》、お手拭の端、切《きれ》ッ屑《くず》、お鼻紙、お手許お有合せの柔かなものにちょいとつけて、」
 婦人《おんな》は絹の襤褸切《ぼろきれ》[#「襤褸切」は底本では
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