何方《どなた》もお煙管《きせる》なり、お簪《かんざし》なり、真鍮《しんちゅう》、銅《あかがね》、お試しなさい。鍍金《めっき》、ガラハギをなさいましても、鍍金、ガラハギは、鍍金ガラハギ、やっぱり鍍金、ガラハギは、ガラハギ。」
と尻ッ刎《ぱね》の上調子で言って、ほほと笑った。鉄漿《かね》を含んだ唇赤く、細面で鼻筋通った、引緊《ひきしま》った顔立の中年増《ちゅうどしま》。年紀《とし》は二十八九、三十でもあろう、白地の手拭《てぬぐい》を姉《あね》さん被《かぶり》にしたのに額は隠れて、あるのか、無いのか、これで眉が見えたらたちまち五ツばかりは若やぎそうな目につく器量。垢抜《あかぬけ》して色の浅黒いのが、絞《しぼり》の浴衣の、糊《のり》の落ちた、しっとりと露に湿ったのを懊悩《うるさ》げに纏《まと》って、衣紋《えもん》も緩《くつろ》げ、左の手を二の腕の見ゆるまで蓮葉《はすは》に捲《まく》ったのを膝に置いて、それもこの売物の広告か、手に持ったのは銀の斜子打《ななこうち》の女煙管である。
氷店《こおりみせ》の白粉首《しろくび》にも、桜木町の赤襟にもこれほどの美なるはあらじ、ついぞ見懸けたことのない、
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