らわし》。
片側の商店《あきないみせ》の、夥《おびただ》しい、瓦斯《がす》、洋燈《ランプ》の灯と、露店のかんてらが薄くちらちらと黄昏《たそがれ》の光を放って、水打った跡を、浴衣着、団扇《うちわ》を手にした、手拭を提げた漫歩《そぞろあるき》の人通、行交《ゆきちが》い、立換《たちかわ》って賑《にぎや》かな明《あかる》い中に、榎の梢《こずえ》は蓬々《ほうほう》としてもの寂しく、風が渡る根際に、何者かこれ店を拡げて、薄暗く控えた商人《あきんど》あり。
ともすると、ここへ、痩枯《やせが》れた坊主の易者が出るが、その者は、何となく、幽霊を済度しそうな、怪しい、そして頼母《たのも》しい、呪文を唱える、堅固な行者のような風采《ふうさい》を持ってるから、衆《ひと》の忌む処、かえって、底の見えない、霊験ある趣を添えて、誰もその易者が榎の下に居るのを怪しまぬけれども、今夜のはそれではない。
今灯を点《つ》けたばかり、油煙も揚らず、かんてらの火も新しい、店の茣蓙《ござ》の端に、汚れた風呂敷を敷いて坐り込んで、物|馴《な》れた軽口で、
「召しませぬか、さあさあ、これは阿蘭陀《オランダ》トッピイ産の銀流し、
前へ
次へ
全199ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング