、湿った手拭を入れておいたな、だらしのない、袂が濡れた。成る程|女房《おかみさん》には叱られそうなこッた。」
「あれ、あんなことをいっていらっしゃるよ。」と嬉しそうに莞爾《にっこり》したが、これで愁眉《しゅうび》が開けたと見える。
「御一所に帰りましょうか。」
「別々に行《ゆ》こうよ、ちっと穏《おだやか》でないから。いや、大丈夫だ。」
「気を着けて下さいましよ。」
九
男女《ふたり》が前後して総曲輪《そうがわ》へ出て、この町の角を横切って、往来《ゆきき》の早い人中に交《まじ》って見えなくなると、小児《こども》がまた四五人一団になって顕《あらわ》れたが、ばらばらと駈《か》けて来て、左右に分れて、旧《もと》のごとく軒下に蹲《しゃが》んで隠れた。
月の色はやや青く、蜘蛛《くも》はその囲《い》を営むのに忙《せわ》しい。
その時|旅籠町《はたごまち》の通《とおり》の方から、同じこの小路を抜けようとして、薄暗い中に入って来たのは、一|人《にん》の美少年。
パナマの帽を前下り、目も隠れるほど深く俯向《うつむ》いたが、口笛を吹くでもなく、右の指の節を唇に当て、素肌に着た絹セル
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