で探って来たので、ついとんだ羂《わな》に蹈込《ふみこ》んださ、意気地《いくじ》はないな、忌々《いまいま》しい。」
とさりげなく打頬笑《うちほほえ》む。これに心を安んじたか、お雪もやや色を直して、
「どうぞまあ、お医者様を内へお呼び申すことにして、あなたはお寝《よ》って、何にもしないでいらっしゃるようにしたいものでございますね。」
「それは何、懇意な男だから、先方《さき》でもそう言ってくれるけれども、上手なだけ流行るので隙《ひま》といっちゃあない様子、それも気の毒じゃあるし、何、寝ているほどの事もないんだよ。」
「でも、随分お悪いようですよ。そしてあの、お帰途《かえり》に湯にでもお入りなすったの。」
考えて、
「え、なぜね。」
「お頭《つむり》が濡れておりますもの。」
「む、何ね、そうか、濡れてるか、そうだろう[#「そうだろう」は底本では「そうだらう」]。医者が冷《ひや》してくれたから。」と、詰《なじ》られて言開《いいひらき》をする者のような弱い調子で、努めて平気を装って言った。
「冷しますと、お薬になるんですか。」と袂を持つ手に力が入ると、男は心着いて探ってみたが、苦笑して
「おお
前へ
次へ
全199ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング