。」
「晩のお菜《かず》に煮て食おう。」と囃しざま、糸に繋《つなが》ったなり一団《ひとかたまり》になったと見ると、大《おおき》な廂《ひさし》の、暗い中へ、ちょろりと入って隠れてしまった。
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  新庄《しんじょ》通れば、茨《いばら》と、藤と、
藤が巻附く、茨が留める、
  茨放せや、帯ゃ切れる、
      さあい、さんさ、よんさの、よいやな。
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 と女の子のあどけないのが幾|人《たり》か声を揃えて唄うのが、町を隔てて彼方《あなた》に聞える。
 二人は聞いて立並んで、黙って、顔を見て吻《ほっ》と息。

       八

「小児《こども》衆ですよ、不可《いけ》ません。両方から縄を引張《ひっぱ》って、軒下に隠れていて、人が通ると、足へ引懸《ひッか》けるんですもの、悪いことをしますねえ。」
「お雪さん、」と言いかけて、男はその淋しげな顔を背けた。声は、足を搦《から》んで僵《たお》された五分を経ない後《のち》にも似ず、落着いて沈んでいる。
「はい、どこも何ともなさいませんか。」
 お雪と呼ばれた花売の娘は、優しく男の胸の辺りで百合の姿のしおらしい顔
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