うちりめん》の腰巻で、手拭《てぬぐい》を肩に当て、縄からげにして巻いた茣蓙《ござ》を軽《かろ》げに荷《にな》った、商《あきない》帰り。町や辻では評判の花売が、曲角から遠くもあらず、横町の怪我《けが》を見ると、我を忘れたごとく一飛《ひととび》に走り着いて、転んだ地《つち》へ諸共に膝を折敷いて、扶《たす》け起そうとする時、さまでは顛動《てんどう》せず、力なげに身を起して立つ。
「どこも怪我はしませんか。」と人目も構わず、紅絹を持った男の手に縋《すが》らぬばかりに、ひたと寄って顔を覗《のぞ》く。
「やあい、やあい。」
「盲目《めくら》やあい、按摩針《あんまはり》。」と囃《はや》したので、娘は心着いて、屹《きっ》と見て、立直った。
「おいらのせいじゃあないぞ、」
「三年先の烏のせい。」
 甲走《かんばし》った早口に言い交わして、両側から二列に並んで遁《に》げ出した。その西の手から東の手へ、一条《ひとすじ》の糸を渡したので町幅を截《き》って引張《ひっぱり》合って、はらはらと走り、三ツ四ツ小さな顔が、交《かわ》る交《がわ》る見返り、見返り、
「雁《がん》が一羽|懸《かか》った、」
「懸った、懸った
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