って来て下さいましたよ。」
「そして※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」
「あの、お向《むこう》の荒物屋に休んでいらっしゃいます。」
「そうか、」といったが、我ながら素気《そっけ》なく、その真心を謝するにも、怨《うらみ》をいうにも、喜ぶにも、激して容易《たやす》くは語《ことば》も出でず。あまりのことに、活きて再び家に帰って、現《うつつ》のごとき男を見ても直ぐにはものも言懸けなかった、お雪も同じ心であろう。ものいう目にも、見えぬ目にも、二人|斉《ひと》しく涙を湛《たた》えて、差俯向《さしうつむ》いて黙然とした。人はかかる時、世に我あることを忘るるのである。
框《かまち》に人の跫音《あしおと》がしたが、慌《あわただ》しく奥に来て、壮《さかん》な激しい声は、沈んで力強く、
「遁《に》げろ、遁げねえか、何をしとる!」
お雪は薄暗い燈《ともしび》の影に、濡れしおれた髪を振って、蒼白《あおじろ》い顔を上げた。理学士の耳にも正に滝太郎の声である、と思うも疾《と》しや!
「洪水《みず》だ、しっかりしろ。」
お雪は半ば膝を立てて、滝太郎の顔を見るばかり。
「早くしねえかい、べらぼうめ。」と叱るがご
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