った。
急に答がないので、更に、
「誰だ。」
「はい、」と幽《かす》かに応《こた》えた。
理学士が一生にただ一度目を開いて見たいのは、この時の姿であった、今のは疑《うたがい》も無いお雪である。
これを聞いて渠《かれ》は思わず手を差延べて、抱《いだ》こうとしたが、触れば消失《きえう》せるであろうと思って、悚然《ぞっ》として膝に置いたが、打戦《うちわなな》く。
「遅くなりまして済みませんでした、拓さん。」
と判然《はっきり》、それも一言《ひとこと》ごとに切なく呼吸《いき》が切れる様子。ありしがごとき艱難《かんなん》の中《うち》から蘇生《よみがえ》って来た者だということが、ほぼ確かめらるると同時に、吃驚《びっくり》して、
「おお、お雪か、お前! そして千破矢さんはどうした、」と数分時前、夢に渠と我とともにあった少年の名をいった。
お雪はその時答えなかった。
理学士は繰返してまた、
「千破矢さんはどうしたんだ、」と、これは何心なく安否を聞いたのであったが、ふと夢の中の事に思い当った。お雪の答が濁ったのを、さてはとばかり、胸を跳《おど》らして口を噤《つぐ》む。
しばらくして、
「送
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