》れ、心も消え、体に悪熱《あくねつ》を感ずるばかり、血を絞って急を告げようとする声は糸より細うして己《おの》が耳にも定かならず。可恐《おそろ》しきものの巌を切る音は、肝先《きもさき》を貫いて、滝の響《ひびき》は耳を聾《ろう》するようであった。
 羽撃《はばたき》聞えて、鷲は颯《さっ》と大空から落ちて来た。頂高く、天近く、仰げば遥かに小さな少年の立姿は、狂うがごとく位置を転じて、腕白く垂れたお雪の手が、空ざまに少年の頭《かしら》に縋ると見た。途端に巌は地を放れて山を覆えるがごとく、二人の姿はもんどり打って空に舞い、滝の音する森の中へ足を空に陥《おちい》ったので、あッと絶叫したが、理学士は愕然《がくぜん》として可恐《おそろし》い夢から覚めたのである。
 拓は茫然自失して、前《さき》のまま机に頬杖を突いた、その手も支えかねて僵《たお》れようとしたが、ふと闇《やみ》のままうとうとと居眠ったのに、いつ点《つ》いたか、見えぬ目に燈《ともしび》が映えるのに心着いた。
 確かに傍《かたわら》に人の気勢《けはい》。

       五十九

「誰だ、」と極めて落着いて言ったが、声は我ながら異常なものであ
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