とくにいって、衝《つ》と縁側に出た、滝太郎はすっくと立った。しばらくして、あれといったが、お雪は蹶起《はねお》きようとして燈《ともし》を消した。
「周章《あわ》てるない、」といって滝太郎は衝《つ》と戻って、やにわにお雪の手を取った。
「助けてい!」と言いさまに、お雪は何を狼狽《うろた》えたか、扶《たす》けられた滝太郎の手を振放して、僵《たお》れかかって拓の袖を千切れよと曳《ひ》いた。

       六十

 お雪は曳いて、曳き動かして、
「どうしましょう、あれ、早く貴方《あなた》、貴方。」
 拓は動じないで、磐石のごとく坐っているので、思わず手を放して、一人で縁側へ出たが、踏辷《ふみすべ》ったのか腰を突いた。しばらくは起きも得なかったが、むっくと立上ると柱に縋って、わなわなと顫《ふる》えた。ただ森《しん》として縁板が颯《さっ》と白くなったと思うと、水はひたひたと畳に上った。
「ええ、」といって学士も立った。
「可恐《おそろ》しい早さだ、放すな!」と滝太郎は背《せなか》をお雪に差向ける。途端に凄《すさま》じい音がして、わっという声が沈んで聞える。
「お雪! お雪。」
 学士も我を忘れて
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