、そのうつぎの花に翼を触れたと見ると、あッという人の叫声。途端に飜って舞上った時に、粉吹雪《こふぶき》のごとくむらむらと散って立つ花片《はなびら》の中から、すっくと顕《あらわ》れた一個の美少年があった。捲《まく》り手《で》の肱《ひじ》を曲げて手首から、垂々《たらたら》と血が流れる拳《こぶし》を握って、眦《まなじり》の切上った鋭い目にはッたと敵を睨《にら》んだが、打仰ぐ空次第に高く、鷲は早や光のない星のようになって消えた。
 少年は、熟《じっ》とその勁敵《けいてき》の逸し去ったのを見定めた様子であったが、そのまま滑《なめら》かな岩に背《せな》を支えて、仰向《あおむ》けに倒れて、力なげに手を垂れて、太《いた》く疲れているもののようである。
 やや有って、今少年が潜んでいた同じ花の下から密《そっ》と出たのはお雪であった。黒髪は乱れて頸《えり》に縺《もつ》れ頬に懸《かか》り、ふッくりした頬も肉《しし》落ちて、裾《すそ》も袂《たもと》もところどころ破れ裂けて、岩に縋《すが》り草を蹈《ふ》み、荊棘《いばら》の中を潜《くぐ》り潜った様子であるが、手を負うた少年の腕《かいな》に縋《すが》って、懐紙《ふ
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