を払って、さし翳《かざ》した笠を投出すと斉《ひと》しく、七分三分に裳《もすそ》をぐい。
「してこいなと遣附《やッつ》けろ、や、本雨だ、威勢が可いぜえ。」

       五十三

 開戸から慶造が躍出したのを、拓は縁に出て送ったが、繁吹《しぶき》を浴びて身を退《ひ》いて座に戻った、渠《かれ》は茫然として手を束《つか》ぬるのみ。半《なかば》は自分の体のごときお雪はあらず、余《あまり》の大降に荒物屋の媼《ばば》も見舞わないから、戸を閉め得ず、燈《ともし》を点《つ》けることもしないで、渠はただ滝のなかに穴あるごとく、雨の音に紛れて物の音もせぬ真暗《まっくら》な家《や》の内に数時間を消した。夜《よ》も初更《しょこう》を過ぎつと覚しい時、わずかに一度やや膝を動かして、机の前に寄ったばかり。三日の内にもかばかり長い間降詰めたのは、この時ばかりであった。おどろおどろしい雨の中に、遠く山を隔てた隣国の都と思うあたり、馳違《はせちが》う人の跫音《あしおと》、ものの響《ひびき》、洪水の急を報ずる乱調の湿った太鼓、人の叫声《さけびごえ》などがひとしきりひとしきり聞えるのを、奈落の底で聞くような思いをしながら
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