い、ちっとも。」
「あの、少しも存じません。」
「それはもう誰も知ったものはござりますまい。」
と車夫の一人。
「島野さん、義作さん、どうしたら可いでしょう。お嬢様が御褒美をお賭けなすったのを、旦那様がお聞遊ばすと、もっての外だ、間違いに怪我でもさせたらどうする、外《ほか》の内の者とは違うぞ、早く留めろと有仰《おっしゃ》るの。承わると実に御道理《ごもっとも》な事だから、早速あの娘にそういおうと思って、昨日《きのう》のことなんです、またこないだからふッとお邸には来ないもんですから、昨日《きのう》その金子《かね》は只《ただ》でお遣わしになることになって、それを持って私があそこへ、あの湯の谷の家《うち》へ行《ゆ》くと居ないんです。荒物屋から婆さんが私の姿を見ると、駆けて出て、取次いで、その花のことについて相談をされたのは私ばかり、はじめは滅相なと思ったが、情《こころ》を察すると無理はないので、泣《なき》の涙で合点しました。今日あたりはもう参ったかも知れませぬ、することが天道様の思召《おぼしめし》に叶《かな》ったら無事で帰って参りましょう。内に居る書生さんの旦那にはごく内々だから黙っておいて
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