てこの地に来たが、富山より、むしろ東京に、東京よりむしろ外国に、多く年月を経た。父は前《さき》に仏蘭西《フランス》の公使館づきであったから、勇美子は母とともに巴里《パリイ》に住んで、九ツの時から八年有余、教育も先方《むこう》で受けた、その知識と経験とをもて、何等かこの貴公子に見所があったのであろう、滝太郎といえばかねてより。……
六
「よく見着けて採って来てねえ、それでは私に下さるんですか、頂いておいても宜《よろ》しいの。」
「だから難有《ありがと》うッて言いねえてば、はじめから分ってら。」と滝太郎は有為顔《したりがお》で嬉しそう。
「いいえ、本当に結構でございます。」
勇美子はこういって、猶予《ためら》って四辺《あたり》を見たが、手をその頬の辺《あたり》へ齎《もた》らして唇を指に触れて、嫣然《えんぜん》として微笑《ほほえ》むと斉《ひと》しく、指環《ゆびわ》を抜き取った。玉の透通って紅《あか》い、金色《こんじき》の燦《さん》たるのをつッと出して、
「千破矢さん、お礼をするわ。」
頤杖《あごづえ》した縁側の目の前《さき》に、しかき贈物を置いて、別に意《こころ》にも留
前へ
次へ
全199ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング