に、実《ほん》のこッた、紳士はぞッとする位で。
「へい、御用ですか。」
「お前、待合わせるものがあるッて、また別嬪《べっぴん》じゃあねえか、花売のよ。」
「御串戯《ごじょうだん》を、」と言ったが、内心|抉《えぐ》られたように、ぎっくりして、穏《おだやか》ならず。
滝太郎は戯《たわむれ》にいったばかり。そのまま茶屋の女《むすめ》を見返り、
「何ぞ食べるものをくれねえか、多い方が可いぜ。」
「姉さんおいしいものを、早く、冷たくして上げるが可い。」と、島野はてれ隠しに世辞をいった。
「はい、西瓜《すいか》でも切りましょうか。心太《ところてん》、真桑《まくわ》、何を召あがります。」
「そんな水ッぽいもんじゃあねえや、べらぼうめ、そこいらに在る、有平《あるへい》だの、餡麺麭《あんパン》だの、駄菓子で結構だ。懐へ捻込《ねじこ》んで行くんだから紙にでも包んでくんな。」と並べた箱の中に指《ゆびさ》しをする。
「どちらへいらっしゃいます。」
「石滝よ。」
驚いたのは茶店の女《むすめ》ばかりではない、島野も思わず顔を視《なが》める。
「兵粮《ひょうろう》だ、奥へ入《へえ》って黒百合を取って来ようという
前へ
次へ
全199ページ中143ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング