んだから、日が暮れようも分らねえ。ひもじくなるとそいつを噛《かじ》らあ、どうだ、お前、勇美さんに言いねえ、土産を持って行ってやるからッてよ。」
「途方もない、若様。それを取ろうッて、実はつい先刻《さっき》だそうです。あの花売の女《むすめ》も石滝へ入ったんです。」
「うむ、」といった滝太郎の顔の色は動いた。滝の響《ひびき》を曇天に伝えて聞える、小川の彼方《かなた》の森の方《かた》を、屹《きっ》と見て、すっくと立って、
「あの阿魔がかい、そいつあ危《あぶね》え!」
 先立って二度あることは三度とやら、見通《みとおし》の法印だった、蔵屋の亭主は奥から慌《あわただ》しく顔を出して、
「そりゃこそ、また一人。」

       四十五

「やあ、島野さん、千破矢の若様はどうしました。」
「義作じゃないか、一体ありゃあどうしたんだね。お前、魔物が夕立に乗って降って来たから、驚いたろうじゃあないか。」と半《なかば》は独言《ひとりごと》のようにぶつぶついう。
 被《かぶ》った帽も振落したか、駆附けの呼吸《いき》もまだはずむ、お館《やかた》の馬丁義作、大童《おおわらわ》で汗を拭《ふ》き、
「どうしたって
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