と思ったんだけれど、お前が居りゃあ世話はねえ。この馬返すからな、四十物町《あえものちょう》まで持って行ってくんねえ、頼むぜ、おい。」
 呆れたものいいと、唐突《だしぬけ》の珍客に、茶屋の女どもは茫乎《ぼんやり》。

       四十四

 島野は、時というとこの苦手が顕《あらわ》れるのを、前世の因縁とでもいいたげな、弱り果てて、
「へい、その馬を持って帰れとおっしゃるんですか。」
 と不平らしい顔をした。
「そうよ。」
「一体その何でございますが、私はどうも一向馬の方は心得ませんもんですから。」
「大丈夫だ。こう、お前《めえ》一ツ内端《うちわ》じゃあねえか、知己《ちかづき》だろう、暴れてくれるなって頼みねえ、どうもしやあしねえやな。そして乗られなかったら曳《ひ》いて行くさ。だからちったア馬に乗ることも心懸けておくこッた、女にかかり合っているばかりが芸じゃあねえぜ。どうだ、色男。」と高慢なことを罪もなくいって、滝太郎は微笑《ほほえ》んだ。
「失敬な。」も口の裡《うち》で、島野は顔を見らるると極《きまり》悪そうに四辺《あたり》をきょろきょろ。茶店の女《むすめ》は、目の前にほっかりと黒毛の
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