が秘蔵の愛馬。島野は一目見て驚いて呆れた。しっくりと西洋|鞍《ぐら》置いたるに胸を張って跨《またが》ったのは、美髯《びぜん》広額の君ではなく、一個白面の美少年。頭髪柔かにやや乱れた額少しく汗ばんで、玉洗えるがごとき頬のあたりを、さらさらと払った葉柳の枝を、一掴み馬上に掻遣《かいや》り、片手に手綱を控えながら、一蹄《いってい》三歩、懸茶屋の前に来ると、件《くだん》の異彩ある目に逸疾《いちはや》く島野を見着けた。
「島野、」と呼懸けざま、飜然《ひらり》と下立《おりた》ったのは滝太郎である。
 常にジャムを領するをもって、自家の光彩を発揮する紳士は、この名馬夕立に対して恐入らざるを得ないので、
「おや、千破矢様、どうして貴方、」と渋面を造って頭《かしら》を下げる。その時、駿足《しゅんそく》に流汗を被りながら、呼吸はあえて荒からぬ夕立の鼻面を取って、滝太郎は、自分も掌《てのひら》で額の髪を上げた。
「おい、姉や。」
「はい、」
「水を一杯、冷《つめた》いのを大急《おおいそぎ》だ。島野、可い処でお前《めえ》に逢ったい。おいら、お前ン処《とこ》の義作の来るまで、あすこの柳にでも繋《つな》いでおこう
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