う方の床几《しょうぎ》に、腰を懸けたのは島野紳士、ここに名物の吹上の水に対し、上衣《コオト》を取って涼を納《い》れながら、硝子盃《コップ》を手にして、
「ああ、涼しいが風が止《や》んだ、何だか曇って来たじゃあないか、雨はどうだろうな。」
客の人柄を見て招《まねき》の女、お倉という丸ぽちゃが、片襷《かただすき》で塗盆を手にして出ている。
「はい、大抵持ちましょうと存じます。それとも急にこうやって雲が出て参りましたから、ふとすると石滝でお荒れ遊ばすかも分りません。」
「何だね、石滝でお荒れというのは。」
「それはあの、少しでも滝から先へ足踏をする者がございますと、暴風雨《あらし》になるッて、昔から申しますのでございますが。」
島野は硝子盃を下に置いた。
「うむ、そして誰か入ったものがあるのかね。」
「今朝ほど、背負上《しょいあげ》を高くいたして、草鞋《わらじ》を穿《は》きましてね、花籃《はなかご》を担ぎました、容子《ようす》の佳《い》い、美しい姉さんが、あの小さなお扇子を手に持って、」と言懸《いいかか》ると、何と心得たものか、紳士は衣袋《かくし》の間から一本|平骨《ひらぼね》の扇子を抜
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