じょ》の山の頂を越えた、その時は、裾を紮《から》げ、荷を担ぎ、蝙蝠傘をさして、木賃宿から出たらしい貧しげな旅の客。破毛布《やぶれげっと》を纏《まと》ったり、頬被《ほおかぶり》で顔を隠したり、中には汚れた洋服を着たのなどがあった、四五人と道連《みちづれ》になって、笑いさざめき興ずる体《てい》で、高岡を指して峠を下りたとのことである。
お兼が越えた新庄というのは、加州の方へ趣く道で、別にまた市中《まちなか》の北のはずれから、飛騨へ通ずる一筋の間道がある。すなわち石滝のある処で、旅客は岸|伝《づたい》に行《ゆ》くのであるが、ここを流るるのは神通の支流で、幅は十間に足りないけれども、わずかの雨にもたちまち暴溢《あふれ》て、しばしば堤防《どて》を崩す名代の荒河。橋の詰《つめ》には向い合って二軒、蔵屋、鍵《かぎ》屋と名ばかり厳《いかめ》しい、蛍狩、涼《すずみ》をあての出茶屋《でぢゃや》が二軒、十八になる同一年紀《おないどし》の評判娘が両方に居て、負けじと意気張って競争する、声も鶯《うぐいす》、時鳥《ほととぎす》。
「お休みなさいまし、お懸けなさいまし。」
四十二
その蔵屋とい
前へ
次へ
全199ページ中134ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング