たちばえ》がする。」
「お前《めえ》、もうちっとこっちに居てくんねえな。おいら勝手に好《すき》な真似はしてるけれど、友達も何《なんに》もありゃしないやな。本当は心細くッて、一向|詰《つま》らないんだぜ。」
「気の弱いことをいうもんじゃあない、私はこれから加州へ行って、少し心|当《あたり》があるんだし、あそこへは先へ行って待合わせている者がある。そうしちゃあいられないんだから、また逢おうよ。そしてお前さんの話をして、仲間の者を喜ばせよう。何の、味方にしようと思えば、こっちのものなんざ皆《みんな》味方さ。不残《のこらず》敵になったって難かしい事はないのだもの。」
「うむ、そんならそうよ。」と頷《うなず》いて身を開いた、滝太郎は今|森《しん》として響《ひびき》も止《や》んだ洞穴の中に耳を澄したが、見る見る顔の色が動いて、目が光った。
「や、山の上で蜩《ひぐらし》が鳴かあ、ちょッ、あいつが二三度鳴くと、直ぐに起きやあがる。花屋の女は早起だ、半日ここに居て耐《たま》るもんかい。」
 ふッと燈《あかし》を消すと同時に、再びお兼の手をしっかと取って、
「姉や、大丈夫だ、暗い内に、急いで。さあ、」
 
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