御覧、どんなに厳重にして守ったって、そりゃ人間の猿智慧《さるぢえ》でするこッた、現にお前さん、多勢黒山のような群集の中で、その観音様を一人で引揚げて来たじゃあないか。人の大事にするものを取って来るのは何でもないが、私がいう宝物は、山の霊、水の精、また天道様が大事に遊ばすものもあろう。人は誰も咎《とが》めないが、迂濶《うかつ》にお寄越《よこ》しはなさらない、大風で邪魔をするか、水で妨げるか、火で遮るか。恐い獣《けだもの》に守らしておきもしようし、真暗《まっくら》な森で包んであろうも知れず、地獄谷とやら、こんな恐い音のする、その立山の底に秘《か》くしてあるものもあろう。近い処が、お前さんが前刻《さっき》お話の、その黒百合というものだ、つい石滝とかの山を奥へ入るとあるッていうのに、そら、昔から人が足蹈《あしぶみ》をしない処で、魔処だ。入っちゃあならない、真暗だ、天窓《あたま》が石のような可恐《おそろし》い猿が居る、それが主だというじゃあないか。この国中|捌《さば》いてる知事の嬢さんが欲しくっても、金でも権柄《けんぺい》ずくでも叶《かな》わないというだろう。滝さんどうだね、そんなものを取って来
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