です、」
「え、」と滝太郎は言淀《いいよど》んで、面《かお》の色が動いたが、やがて事も無げに、
「何、そりゃ、ちゃんと心得てら。でも、あの余計にゃあ無いもんだ。こいつあね、蠅じゃあ大きくって、駄目なの、小さな奴なら蜘蛛《くも》の子位は殺《やッ》つけるだろう。こら、恐《こわ》いなあ、まあ。」
心なく見たらば、群がった苔の中で気は着くまい。ほとんど土の色と紛《まが》う位、薄樺色《うすかばいろ》で、見ると、柔かそうに湿《しめり》を帯びた、小さな葉が累《かさな》り合って生えている。葉尖《はさき》にすくすくと針を持って、滑《なめら》かに開いていたのが、今蟻を取って上へ落すと、あたかも意識したように、静々と針を集めて、見る見る内に蟻を擒《とりこ》にしたのである。
滝太郎は、見て、その験《げん》あるを今更に驚いた様子で、
「ね、特別に活きてるだろう。」
五
「何でも崖《がけ》裏か、藪《やぶ》の陰といった日陰の、湿った処で見着けたのね?」
「そうだ、そうだ。」
滝太郎は邪慳《じゃけん》に、無愛想にいって目も放さず見ていたが、
「ヤ、半分ばかり食べやがった。ほら、こいつあ溶けるん
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